大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1770号 判決

理由

一、控訴人が被控訴人に対し昭和四三年九月名誉回復等の訴を東京地方裁判所に提起したが、控訴人、被控訴人間に和解が成立し、昭和四四年五月三一日控訴人が右訴を取下げたことは当事者間に争いがない。

二、控訴人は、右和解契約において、被控訴人は株式会社東潮社の代表者である控訴人が現に甘受している不渡処分の撤回を速かになすことを約したにかゝわらず、未だにその履行をしないと主張するので判断する。

《証拠》を総合すると、次の事業が認められる。

前掲和解に際し、その条項の作成についてはじめ控訴人が作成した和解案(甲第五号証)では「被控訴人は不渡処分の撤回を速かになす」とあつたが、不渡処分撤回の決定権は手形交換所にあるため、被控訴人としては右不渡処分の撤回を約すことができないので、その変更を求めた結果、和解条項としては「被控訴人は株式会社東潮社代表者脇坂俊彦が現に甘受している不渡処分の撤回を速かになすことを努力すること」とする旨の合意が成立し、その旨の念書(乙第一号証)が作成された。

ところで、控訴人の取引停止処分の対象となつた手形が偽造手形であるとしても、すでに東京手形交換所交換規則第二四条による請求の期限が経過していた関係上同規則第二三条による解除申請をすることになるので、被控訴人は控訴人に対し右申請に添付すべき手形が偽造されたものであることを証明する資料を提供するよう依頼し、控訴人もこれを承諾した。

そこで、被控訴人は前記和解条項に従い手形交換所に提出すべき不渡処分撤回申請の原稿をタイプして控訴人から右資料が提供されるのを待つていたが、控訴人からはその提供がなされないまゝ現在に至つた。

原審での控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲証拠と対比して信用し難く、他に以上の認定を覆えし控訴人の主張事実を肯認し得る証拠はない。

右認定の事実によると前掲和解において被控訴人は自ら不渡処分の撤回をなすことを約したものではなく、手形交換所のなす取引停止処分の撤回が速かになされることに努力することを約したものであり、被控訴人のなすべき取引停止処分解除の申請が遅れているのは、控訴人が右申請に添付すべき資料を提供もしないことに原因するものといわなければならない。

そうすると、控訴人の本訴請求は爾余の点について判断するまでもなく失当というのほかはなく、右請求を棄却した原判決は正当で本件控訴は理由がない

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例